ヤット・シウ氏が語るステーブルコインの本質──香港・米国・日本、規制競争の行方
ポイント
- アニモカ・ブランズ会長ヤット・シウ氏が来日し、ステーブルコインを「金融インフラの再定義」と位置づけた
- 米国では2025年以降のステーブルコイン関連立法(GENIUS法案など)が加速し、香港も独自のライセンス制度を整備中
- 日本は2024年の資金決済法改正でステーブルコイン発行が解禁されたが、普及はまだ限定的
- シウ氏は「規制の明確化こそが機関資金を引き込む最大のトリガー」と断言
アニモカ・ブランズ共同創業者兼会長のヤット・シウ氏が来日し、CoinDesk JAPANのインタビューに応じた。後編の主題はステーブルコイン。香港・米国・日本それぞれの規制動向と、ステーブルコインが既存金融秩序をどこまで塗り替えるかについて、シウ氏は持論を展開した。
ステーブルコインが「インフラ」になる理由
ステーブルコインをただの決済ツールとして捉えるのは、もう時代遅れだ。シウ氏の見立てでは、ステーブルコインは銀行口座、送金網、資産管理の三つを同時に代替できる「プログラマブルな金融レイヤー」として機能しはじめている。
特に注目すべきは、グローバルサウスとの接続性だ。既存の銀行インフラが薄い地域では、ウォレットひとつで米ドル建ての価値保存と国際送金が完結する。これは西側の金融機関が数十年かけても達成できなかったことを、スマートコントラクトが一気に飛び越えようとしている話だ。
香港・米国・日本——三極の規制競争
香港は独自のステーブルコインライセンス制度の整備を進めており、アジアのWeb3ハブとしての地位を固めようとしている。シウ氏はこの動きを「香港が本気でデジタル金融の中継拠点を狙っている証拠」と評価する。
米国では、GENIUS法案をはじめとするステーブルコイン規制の立法化が進行中だ。筆者がみるに、米国の規制明確化は業界にとって両刃の剣ではある——縛りが増える一方で、機関投資家が堂々と参入できる地盤ができあがる。シウ氏も「規制の不確実性こそが最大の参入障壁だった」と指摘しており、法整備が整えば巨大な機関マネーが流入するという見方だ。
日本は2024年に資金決済法を改正し、銀行・信託・資金移動業者がステーブルコインを発行できる枠組みを作った。ただし実態はまだ動き出したばかり。三菱UFJ信託や大手銀行がPrognos(旧Progmat)などのプラットフォームを通じて動いているが、エンドユーザーへの浸透は正直これからだ。シウ氏は日本市場について「インフラへの意欲は感じる。ただスピードが問われる」と語ったという。
市場への含意
投資家・トレーダー目線で整理すると、今のフェーズは「規制整備→機関参入→流動性拡大」というサイクルの入口にある。
注目すべきプレイヤーはいくつかある。まずトークン化された法定通貨建て資産(いわゆるRWA、リアルワールドアセット)との連動だ。ステーブルコインが決済レールとして機能すれば、国債・不動産・株式のオンチェーン化も加速する。アニモカ自体もMoca IDを通じてオンチェーンの信用インフラ構築に動いており、エコシステムの川上を押さえようとしている。
もう一点。ステーブルコインの規制競争は、発行体の信用力と準備資産の透明性が差別化要因になる。USDCやUSDTが既存の地位を持つ一方、各国規制に準拠した「ローカル対応型」ステーブルコインが台頭する余地は十分にある。日本円ステーブルコインの国際的な流通が実現した場合、円の利用圏拡大という文脈でも見逃せない。
ただし、過度な期待は禁物だ。規制が整備されれば必ず普及するわけではなく、UI/UXの壁、既存金融機関との軋轢、税務上の扱いなど、実用化には複数のボトルネックが残る。
まとめ
ヤット・シウ氏のメッセージは一貫している。ステーブルコインは「暗号資産の一種」ではなく、金融インフラそのものとして設計されなければ意味がない、ということだ。香港が規制整備でリードし、米国が法制化で追い、日本は静かに助走している——この三極構図のなかで、次の2〜3年が普及の分岐点になる。規制の窓が開きつつある今こそ、業界のプレイヤーにとって動き時だとシウ氏はみている。
よくある質問
Q1. ステーブルコインとは何か、仮想通貨との違いは?
ステーブルコインとは、米ドルや円など法定通貨の価値に連動するよう設計されたデジタル資産のこと。ビットコインやイーサリアムのように価格が大きく変動しないため、決済・送金・資産保全の手段として使われる。裏付け資産(現金・国債など)を保有して価値を担保するタイプが主流で、USDCやUSDTが代表例。ブロックチェーン上で動作する点は他の暗号資産と同じだが、価格安定性を持つことで金融インフラとしての実用性が格段に高い。
Q2. 日本でステーブルコインを発行・利用するには今どんな規制が適用されるのか?
2024年施行の改正資金決済法により、日本では銀行・信託銀行・資金移動業者が円建てなどのステーブルコインを発行できるようになった。発行体は準備資産の保全義務や利用者保護のルールに従う必要がある。外国発行のステーブルコインを国内で取り扱う場合も、仲介業者が登録を受けなければならない。現時点では機関向けの実証実験が先行しており、一般消費者が日常的に使える段階には至っていない。