米連邦準備制度、暗号資産企業が長年求めてきた「限定マスターアカウント」制度を提案
ポイント
- 米連邦準備制度(Fed)が、暗号資産企業を含むノンバンク金融機関向けの「限定マスターアカウント」制度の新規則案を提示
- マスターアカウントは米決済インフラへの直接アクセスを可能にするもので、暗号資産業界が数年来獲得を目指してきた
- 従来の完全アカウントより制限付きだが、銀行を介さずFedの決済網に接続できる点で業界にとって歴史的な前進
- 最終規則の確定次第では、ステーブルコイン発行体やカストディアン(資産管理業者)のビジネスモデルを大きく変える可能性がある
米連邦準備制度(Federal Reserve、以下Fed)が、暗号資産企業を含むノンバンク機関に対し、限定的な条件付きでFedの決済システムへの直接接続を認める「限定マスターアカウント」の新ルールを提案した。業界が何年も働きかけてきた要求がついに制度設計の俎上に載った形だ。
マスターアカウントとは何か、なぜ重要なのか
Fedのマスターアカウントとは、米国の中央銀行決済インフラであるFedwireやFedACHに直接アクセスするための口座だ。これを持つ金融機関は、他の民間銀行を経由せずに資金を動かせる。コスト・スピード・リスクの三点で圧倒的に有利になる。
暗号資産企業にとってこれがどれだけ切実だったか。Custodia BankやKraken Bank(ワイオミング州の特殊目的預金機関、SPDI)はマスターアカウントの取得を何年も申請し続けたが、Fedに繰り返し拒否されてきた。Custodiaは2023年にFedを提訴し、その攻防は業界の象徴的な戦いになった。
今回の提案は「限定(limited)」という条件が付く。完全なマスターアカウントと同等の権限ではなく、一定の利用制限や追加の監督要件が課される見通しだ。それでも、Fedがノンバンクの暗号資産関連機関に対して門戸を開く方向性を示したこと自体が転換点といえる。
背景には政治的な潮目の変化もある。トランプ政権下でのデジタル資産規制の緩和路線、そして議会で進むステーブルコイン法案(GENIUS Act等)の審議が、Fed側にも姿勢の再考を迫った面は否定できない。規制環境が変わりつつある中で、Fedが「何もしない」選択肢を取り続けることのコストが上がったのだ。
市場への含意
投資家・トレーダー目線で整理すると、影響が最も直接的なのはステーブルコイン発行体とカストディアン系のプロジェクトだ。
現状、USDCを発行するCircleやPayPal傘下のPYUSDなどは、民間銀行パートナーを介して米ドルの決済を処理している。限定マスターアカウントが認められれば、Fed直結の決済ルートを持つ発行体が登場しうる。カウンターパーティリスク(取引相手の破綻リスク)が下がり、ステーブルコインの信用基盤が厚くなるという見方が成り立つ。
一方で、既存の民間銀行——特に暗号資産企業向けに特化してきたSignature Bank(破綻済み)の後継的ポジションを狙う金融機関——には競合圧力になりうる。Fedのインフラに直接つなげるなら、わざわざ暗号資産フレンドリーな銀行を探す必要性が薄まるからだ。
注意すべきは、これはあくまで「提案」段階であること。パブリックコメントの収集、最終規則の策定と、確定まではまだ時間がかかる。過去にも似たような期待が先走って失望に終わったケースがある。筆者は、今すぐ材料視して大きく動く話というより、規制の地殻変動を示す中長期の方向性として捉えるべきだとみている。
ステーブルコイン関連トークンや、米国でのカストディビジネスを展開する企業の株式・トークンをポートフォリオに持つなら、最終規則の行方を継続的にウォッチする価値がある。
まとめ
Fedが限定マスターアカウントの制度化に動いた。暗号資産企業が何年も求め続け、訴訟まで起こしてきた要求がようやく政策議論の正面に出てきた。「限定」の中身と監督要件の詳細が今後の焦点になる。制度が整えば、ステーブルコインや機関向けカストディのインフラ基盤は質的に変わる。規制の風向きが変わった今、この動きを単なるニュースとして流すのはもったいない。
よくある質問
Q1. マスターアカウント(Fed Master Account)とは何ですか?
Fedのマスターアカウントとは、米国の中央銀行が運営する決済システム(FedwireやFedACH)に直接アクセスするための口座のこと。これを保有する金融機関は、他の民間銀行を仲介せずに資金の送受信が可能になる。コスト削減・送金速度の向上・カウンターパーティリスクの低減といったメリットがあり、これまでは主に伝統的な銀行のみが取得できた。今回の提案により、暗号資産関連のノンバンク機関にも限定的な形での取得道が開かれる可能性が出てきた。
Q2. 今回の提案は暗号資産市場にすぐ影響しますか?
現時点では「提案」段階であり、即時の制度変更ではない。パブリックコメント期間を経て最終規則が確定するまでには相応の時間がかかる見込みで、実際の影響が出るのは早くても数年単位になる可能性が高い。ただし、Fedが方向性として限定アカウントの開放を示したこと自体が業界のセンチメントを変える材料になりうる。ステーブルコインやカストディ関連ビジネスの中長期的な競争環境を左右するため、規制動向として継続的に注視すべき案件だ。